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アメリカの大学、大学院

2004年2月4日

 時折、メールでアメリカの大学についての問い合わせがあります。まあ私は学校には数だけは行っており、その体験を時折この欄に書いているからだと思いますが、今回はアメリカの大学について少し書いてみます。と言っても私が知っているのはニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの東部3州の自分が行った大学に限られますが・・・。

 ここ数週間日本で話題になっている事と言えば、鳥インフルエンザ、BSEによる肉の輸入禁止問題、古賀潤一郎衆議院議員の学歴詐称問題でしょうか。学歴詐称と言えば、数年前、元阪神タイガーズ監督の野村氏の夫人が「コロンビア大学に留学していた」と経歴を偽り話題になった事がありました。コロンビアは現在私が通っている大学ですので、卒業していれば卒業生名簿を調べればすぐ分ります。そうではなくただ1学期、単位を取っただけだとしてもちゃんと出席し、期末にも落ちていなければ記録として残っています。が、ただ講義を傍聴しただけだと記録はありません。毎年何千人もの学生が出入りするからです。要は正式にその学校の授業を取っていれば記録に残る。あとは英語学校在籍の場合ですが、この場合はちょっと分りません。

 因みに英語学校は不思議な?存在で、半分或いは完全に独立していると考えた方が良いシステムです。コロンビア大学にもニューヨーク大学にも英語学校がありますが、そこに行って学んでも、コロンビア大学、ニューヨーク大学に行ったことにはなりません。英語学校の単位は大学の正式な教科に数えられないからです。勿論、例外的に単位として認めることもありますので、全く無いとは言いませんが。大学が経営している英語学校は日本の学校制度には当てはまらないと思いますが、簡単に考えると、外国人の為に大学が予備校を作っているという感じでしょうか。予備校はあくまで予備校。大学という経歴は付きません。しかしそこで頑張って英語力を身につければ大学や大学院に入れる可能性が高くなります。

 もし今現在、留学を考えている方がこのコラムをご覧になったら英語学校は大学ではないこと、留学というカテゴリーに当てはまらなくなりつつあるということを確り肝に銘じて下さい。英語学校に入るのなら目標としている学校に行くように努力して下さい。私はこれまで英語学校に来て、初めのうちは勉強していたけど、次第にアルバイトや他の事に目が移り、学業を放棄して遊び、英語もあまりできずに暮らしている人や、そのまま日本に帰ってしまう人を幾人も見てきました。ですから英語学校に行くのなら余程意志が強くない限り、都会とか遊びの多い地域はお勧めしません。

 良くある誤解に「アメリカでは誰でも大学に入れる。」「入るのは簡単で、出るのは難しい。」というのがあります。まず、「誰でも入れる」ですが、これは「学校を選ばなければ」という条件が付きます。アメリカの学校にもピンからキリまであります。名門と呼ばれる学校から、コミュニティー・カレッジという地方の郡で経営している大学まで様々です。コミュニティー・カレッジはそれこそ、その地域の住人なら誰でも入れます。学力が無く、ある程度の学校に入れなかった学生、お金が無くフルタイムで学校に行けない人、高卒で社会人になったが大学に行って学びたい人など様々な人がいます。ここはほとんど無試験に近い状態で入れます。地域の学校ですので留学生を受け入れる制度があるところと無いところがあるようです。でも本当に学ぶ積もりならコミュニティー・カレッジは大いに学べる場です。要は自分次第。

 一方、その他の大学は私立であっても州立であっても、日本のような直接大学に行ってテストを受けるような入学試験こそありませんが、日本の共通試験(失礼、正しい名称を知りません)に相当するテストが大学入試だとSAT、大学院だとGREというものがあり、それの点数次第で受けられる学校が限られてしまいます。例えばハーバードやエールだとSAT、英語と数学の合計が1300点以上、TOEFLだったら250点以上(昔の600点)以上が最低ラインで、それ以下だとまず受からない。ですから多くの受験生がその時点でそれらの学校に申請するのを断念して、それよりもランクが低い学校を受験します。テストの点数以外に学校の成績、先生や知人の推薦状、社会奉仕、学校以外での活動、特技など、様々な物の提出が要求されます。最近、日本の大学も色々変わってきたようですが、この多角的に学生の資質を見ると言う点では、まだまだアメリカの大学に及ばないような気がします。学力プラス諸々が考慮されますので、自分の希望する大学に入るのはかなり難しいと言えます。勿論、それでも受けたければ受けるのは自由です。つまり「入るのは簡単」というのは「有名校でなければ」ということです。

 さて入れても、「出るのは難しい」というのは、そうだと思います。勿論、学校が学生に要求する理解度、知識、質などが違いますので、難しい学校になればなるほど卒業するのは大変です。試験や論文に追われます。それと今まで行った学校の中では何百人もいるような講義は一度も体験していないので、そのような大きな授業だとどうか分りませんが、通常、授業は厳しく出席を取ります。理由無く3回休めば、そのコースは落第します。病気や何らかの理由で休む場合はちゃんと教授かアシスタントに連絡をします。勿論、代返などは効きません。まあ、これも大学の要求度によりますので、全部が全部とは言いませんが、やはり出席してこその講義でしょう。授業料も高いし休むのはもったいない(笑)。

 卒業資格としては短大に当たるコミュニテー・カレッジのAssociate(准学士)で60単位ちょっと、4年制のBachelor(学士)が125~130単位。大学院は専門的な勉強の場ですので、何を専攻するかによってMaster(修士)の単位も違います。図書館学だと30単位、教育だと30~45、法科だと60~70、神学校だと普通の修士は60単位で牧師になる為の修士だと75~80単位が必要とされます。まあこの上にDoctor(博士)がありますが、修士より更に15~30単位多く修得しなければなりません。今、私は教育学博士課程にいますが、どれほど長い道のりかお分かりいただけるかと思います。

 卒業する前、大学でも大学院でも卒業単位に足りているかどうかの確認と、卒論或いは資格試験に相当するものが要求されます(大学の専攻学部によって、また一部大学院では卒論を免除される学校もあるのでこれもケースバイケース)。そして晴れて卒業すれば、卒業証書を貰いますし、卒業生名簿にも自動的に登録されます。一度卒業すれば、一年中いつでも卒業証明、在籍証明、成績証明などを申請すれば発行してもらえます。またよく母校から卒業生に寄付金のお願いが来ます。私立は特に多い。私はまだ母校には1、2度しか寄付をした事がありません。全部にしていたら破算してしまいます。

 こうして見ると古賀衆議院議員のように19単位も足りないような状況での卒業はまずありえません。明らかに彼はそのことをちゃんと理解していなかった、つまり卒業をちゃんとしていなかった。卒業のような大事なことを理解していないということは、遊学して全てを弁護士や他者に任せきりだったか、余程迂闊だったかのどちらかでしょうか。或いは卒業できていないのを承知の上で「日本人はアメリカの学校制度など知らないから、まあいいか。」位の軽い気持ちでいたのでしょうか。いずれにしても余りにもお粗末な発言、行動で議員の辞職勧告が取りざたされてもしかたないかもしれません。ある自民党代議士が「{在籍}にしておけば良かったのに」と言っていましたが、正に同感です。議員は学歴よりも実績、人柄が勝負なのですから。

 私は日本の一発勝負的な受験、受験競争が嫌で中学から受験に対して懐疑的になり、それもあってアメリカに来ました。一ついえるのはアメリカの大学の方が、より色々な角度から受験生を見てくれるということです。何か得意なものがあればそれを見てくれます。20数年前、F.I.Tというニューヨーク州立大(ファッション・デザイン系の美大)の二年制一般美術学部に入学した時のことですが、受験の折、全ての書類を出し終えた後、面接に臨みました。面接は簡単なスケッチと教授との質疑応答でした。翌日、大学から「合格です。すぐに入学手続きを取ってください。」と電話がありました。何でも私と話た教授が私の作品を気に入ってくれたとのこと。日本では芸大を二度受験しましたが、教授と話す機会とて全くありませんでした。結果、不合格。アメリカではその後行った学校でも、面接の折など、いつも丁寧な対応を受けました。勿論、これは面接担当官レベルであって、事務局では結構いい加減な対応もありましたので、人や部署によるのだと思いますので、念のため。

 日本は今受験真っ只中だと思います。どの学校に行くにしても悔いが残らないよう確りやって欲しいものです。また、学校によって人生が決まるわけでもないので、あまり有名校云々にとらわれる必要はないと思います。自分が何を本当にしたいのかを見つけて下さい。



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