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教育と伝道

2003年3月6日

 私は元々アメリカに美術を学びに来ました。世界的な芸術家になってニューヨークを中心に個展を開き活躍する、、そんなことを思い描いて、美大に入りました。ニューヨークでまあまあ知られた美大を2つ卒業しましたが、在学中から画家になるということに迷いが生じました。それは分かっていたことでしたが美術の世界も資本家によって回っており、画家も美術で生活の糧を得ることを考えたら、資本家の好む絵を描かなくてはならない現実に何だか自分が資本主義に迎合していくように思えたからです。

 あの頃の私はかなり思い上がっていたようで、小生意気な学生だったと思います。英語がちょっとできるようになると有頂天になったり、学校でちょっと認められ賞を貰ったり、優秀学生に選ばれると「俺には才能がある」とのぼせ上がったり。美大と美大の間に1年間、日本で働いてお金を貯めていましたが、よく友人と酒を飲んでくだをまいたり、色々失敗したりもしました。

 失敗したり、挫折しそうになって将来に対して不安になったりし、改めて自分の信仰を見つめました。同じ時期にニューヨーク日米合同教会が主催していた小中学生対象のサマーキャンプに出会いました。1980年代最初の頃です。こんな私でしたがリーダーの一人として連れて行ってもらい奉仕させていただきました。このキャンプは合同メソジスト教会のキャンプ場を借り70人のキャンパーと10名のカウンセラー、リーダーが3週間過ごすというもので、聖書の話、ゴスペル・ソング讃美、日本語の勉強(日本から学校の先生がカウンセラーとして参加していた)やスポーツ、諸々のゲームやプログラムを毎日して、今でもこれほど質の高いキャンプは無いと思える素晴らしいものでした。

 そこで、それまで聖書や祈りと全く無関係に育ってきた日本人の子供たちが、心開かれ、御言葉に触れ、変えられていく姿を目の当たりにしました。例えば、食堂でグループごとにテーブルに着きますが、初めの頃は、まず自分が人よりも先に食べ物を取るこが多くいました。しかも他の子のことなど考えずに大盛りによそい、後の子達の分がなくなり、食事が始まる前からキッチンにお代わりを取りに行かなくてはならなくなってしまうということがありました。それがキャンプの後半になると、自分よりも小さい子に譲ったり、カウンセラーに譲ったりと、周りのことに配慮するようになりました。我侭な自分から他者と共に生きる自分に目覚めたわけです。祈りなどしたこと無かった子が、ホームシックになった友達のために祈ったり、恵まれている自分達に気付き、親に感謝したり、アフリカやアジア、南米の恵まれない子供達のことを考えたり、、、。

 そんな子供達にカウンセラーやリーダー達も逆に影響を受け変えられました。勿論、私もその一人。それまでの思い上がった自分に気が付き、もっと純粋に生きたいと思いました。そして「キャンプでの伝道教育、これこそが自分に与えられた道」だと思いました。数年後、私は神学校に入学しました。キリスト教教育に関わる召命を確信して。

 紆余曲折しながらも2つの神学校を卒業しました。しかし神の不思議な召しで教育伝道から教会での牧会へと導かれました。しかも最初は日本人伝道をやろうと立ちましたが、またまた不思議な導きを感じて、米国合同メソジスト教団に属し、牧師試験を受け正教師となり、現在のパークリッヂのアメリカ人の教会に1995年に遣わされました。アメリカ人の教会の牧師としてお遣えする傍ら日本人伝道を続け現在に至っています。その間、いつも教育伝道が頭にありました。

 「学校に戻って教育を学びたい」と思っていはいましたが教会の仕事が忙しく、また楽しく、延び延びになっていました。パークリッヂに来て7年、そのまま何も無ければ、ずっと「勉強したいなあ」という思いを抱えたまま何もせずに一生過ごしたかもしれません。ところが一昨年の9月11日のテロ事件が起こりました。キャンプの教え子のお父さんが亡くなりました。このことが切っ掛けで、人の心を本当に変えるのは神の救いだが、そこに至るまでにはもっともっと種まきが必要であり、教会で福音を述べ伝えるのは勿論だが、できたら早い時期から始めた方が良い。「やはり自分がすべきことは教育だ。」と初心に立ち返りました。

 昨年9月から仕事をしながらですが、学校に戻りました。現在、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジの教育学博士課程に籍を置いてますが、これまでの道のりを考えると、一つ一つ神によって備えられていたことを感じます。あと何年で卒業できるか分かりませんが、いつかは教会は勿論のこと、キャンプや学校、神学校でも教育伝道に携わりたいと願っています。

 時折、かつてのキャンパー達からメールを貰ったり、便りを貰ったりしますが、もう彼らもすっかり大人になり、子供がいる人たちも珍しくありません。できたらかつてのキャンパー達の子供達のためにキャンプを作れたらいいな、と考える今日この頃です。



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